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2026.09.16
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【夢を見た人のノート】メアリー・シェリーの悪夢

夜、眠りについたあとに見る夢。

楽しい夢もあれば、不思議な夢もあります。
目が覚めたあとも、なぜか心に残り続ける夢があります。

夢は、朝になると少しずつ消えていきます。
けれど人は、ときどき夢の中から何かを持ち帰ります。

ひとつの場面。
忘れられない言葉。
聞こえた気がする音。
まだ名前のついていない物語。

このシリーズでは、夢やまどろみの中で見たものを朝の世界へ持ち帰り、物語や音楽、発見へと変えていった人たちをたどっていきます。

雨に閉じこめられた夏

1816年の夏、スイス・ジュネーヴ湖のほとりには、雨が降り続いていました。

せっかくの旅先にもかかわらず、外へ出るには天気が悪い。
空は重く、湖は暗く、山々の景色も灰色の雨にけぶっています。

屋敷の中に集まった若者たちは、夜になると怪談を読み、互いに恐ろしい物語を語り合って過ごしていました。

その中に、まだ十代だったメアリー・シェリーがいました。
のちに『フランケンシュタイン』を書くことになる女性です。
けれど、その時の彼女はまだ、自分が世界中に知られる怪物の物語を生み出すことになるとは知りませんでした。

物語を思いつけない夜

雷や雨の音を聞きながら、恐ろしい物語を読み、夜ごと想像をふくらませる。
やがて、誰かが「それぞれ怪談を書いてみよう」と言い出します。

その場には、詩人のバイロンや、のちにメアリーの伴侶となるパーシー・シェリーもいました。
才能ある人々に囲まれた中で、メアリーはなかなか物語を思いつけませんでした。

朝になるたびに「何か思いついた?」と聞かれる。
けれど、答えはいつも同じです。

まだ、何も。

部屋には、怪談の余韻が残っている。
外では、雨の音が続いている。
けれど、自分の中からは物語が出てこない。

そんな夜は、現代の私たちにもどこか覚えがあります。
眠る前に考えごとをしていると、体は休みたいのに、頭の中だけが動き続ける。

メアリーも、そんな落ち着かない夜を過ごしていたのかもしれません。

命をつくることへの問い

この時代、生命の不思議は、人々の想像力を強く刺激する話題のひとつでした。

人は、命のないものに生命を与えることができるのか。
命を失った体に、もう一度動きを与えることはできるのか。

科学や実験の話は、怪談と同じくらい、人の心をざわつかせるものだったのかもしれません。

今の私たちにとっても、生命の境界に手を伸ばすことには、どこか踏み越えてはいけない気配があります。
それは希望であると同時に、恐ろしさも含んでいます。

雨の夜に聞いた、生命の不思議についての話。
その余韻は、怪談とともに、メアリーの心の奥へ静かに積もっていきました。

眠る前に聞いた言葉。
夜の空気。
雨音。
どうしても物語を思いつけない焦り。

それらが混ざり合い、ひとつの場面を形づくっていきました。

目を閉じて見た怪物

その晩、メアリーは眠れないまま横になっていました。

完全に眠っていたわけではありません。
けれど、はっきり目覚めていたとも言い切れない。
眠りと目覚めの境目にいるような、ぼんやりとした時間です。

そのとき、彼女はある光景を見ます。

若い研究者が、自分の作り上げたもののそばにいる。
人の形をしているけれど、人とは言い切れない存在。
動かないはずの体が、何かの力によって、かすかに命を帯びはじめる。

それは、ただの怪物の夢ではありませんでした。

生命の境界に触れようとした人間の恐ろしさ。
生み出されてしまった存在の悲しさ。
自分の手で生み出したものから、目をそらしたくなる心。

メアリーが見たのは、恐怖そのものというより、恐怖が生まれる瞬間だったのかもしれません。

夜から持ち帰ったもの

翌朝、彼女はその光景を物語にしはじめます。
最初は短い怪談として書き始めた物語は、少しずつ大きくなっていきました。

夢の中の一場面に、人物が生まれる。
感情が生まれる。
孤独や恐れが生まれる。

そうして夜の幻は、朝の世界で、ひとつの物語へ変わっていきます。
やがて、その物語は一冊の小説になります。

フランケンシュタイン

そこに描かれたのは、ただ恐ろしい怪物ではありませんでした。

生命の境界に手を伸ばした人間。
生み出されたのに、受け入れてもらえなかった存在。
創造することと、その責任。

一晩の幻は、ひとつの場面で終わりませんでした。
言葉になり、物語になり、やがて時代を越えて読み継がれる小説になったのです。

メアリー・シェリーが夜から持ち帰ったのは、ひとりの怪物でした。

私たちの夢の中にも、ときどき、朝の世界までついてくる何かがあります。

忘れられない場面。
なぜか心に残る言葉。
目覚めたあとも続いている感情。

今夜見る夢の中にも、まだ名前のない何かが、静かに眠っているのかもしれません。

(文・熟睡アラーム編集部)

 

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