ヨーロッパの夜は、かつて今よりずっと暗く、そして静かでした。
街灯も暖房も十分ではなかった時代、人々は“どう眠るか”を工夫しながら、夜と向き合ってきました。
その工夫の原点にあるのが、藁を束ねてつくった素朴な寝床――のちに「ベッド」へと進化する、眠りのはじまりの形です。
藁の寝床がつくった、最初の“眠る場所”
中世ヨーロッパでは、多くの家庭が藁を厚く敷き、その上に布をかけて眠っていました。
柔らかくはないものの、地面の冷気を和らげ、湿気を逃し、生活の中で安心して休むための大切な工夫でした。
夜になると、家族は暖炉のまわりに集まり、火の明かりと月明かりだけを頼りに、藁の上へと横になります。
ざらりとした藁の感触、微かな草の匂い――それらすべてが“夜の合図”となり、大地に包まれるように眠りへと落ちていきました。
やがて藁を袋状の布に入れた「ティック」が登場し、寝床は少しずつ“道具”として整い始めます。
藁の量を調整して硬さを変えられるようになり、眠りはより“個人の心地よさ”へ近づいていきました。
寝台の誕生 ― 眠りが“家具”になるまで
人々は次第に、ただ地面に身体を横たえるだけでなく、“眠る場所をしつらえる”という意識を持つようになります。
木材や石で台座を作り、その上に藁を敷いた簡素な寝台は、夜の冷えから身体を守り、少し高さがあることで安心感をもたらす、“自分だけの休息の領域” となっていきました。
小さな寝台が暮らしに生まれたことで、眠りは日常の営みの中でも特別な“切り替えの時間”として認識されるようになります。

羽根ぶとんと家庭の安らぎ ― 眠りが豊かになる時代へ
近代に入ると、藁に代わって羽根を詰めた寝具が登場し、眠りは新たに“あたたかさ”と“柔らかさ”を手に入れます。
羽根ぶとんは体にふわりと沿い、冷たい空気から守ってくれる。
冬の長い北ヨーロッパでは、まさに“夜を越えるための相棒”でした。
硬い床、冷たい空気、暗い家――そんな厳しい環境の中で、羽根ぶとんは心に寄り添うようなぬくもりを与え、眠りに「休息」や「心の回復」という価値をもたらしました。
寝具の改良は、生活の質そのものを整える文化の進歩だったのです。
藁の匂いと月の光が教えてくれること
現代の私たちは、柔らかいマットレスも暖かな灯りも手に入れました。
それでも、藁ぶとんや木製の寝台が持っていた“原初の眠り”の感覚には、今もどこか惹かれるものがあります。
それはきっと、自然の気配とともに横たわり、深まる夜の静けさに身をゆだね、そして“眠る場所を整える”という小さな所作が心を落ち着かせてくれる。
そんな、眠りの本質に近い感覚がそこに息づいているからです。
夜が深まると、窓の向こうに月の光がそっと差し込みます。
藁の上で眠った昔の人々と同じように、私たちも今日をそっと手放し、静かな眠りへと戻っていくのかもしれません。
眠りのかたちは、時代とともに変わっていきました。
けれど、夜に心身をゆるめ、明日へ向かう力を取り戻す――その本質は、いつの時代も変わりません。
(文・熟睡アラーム編集部)
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